中医学は、何千年の歴史を持つ中国で生まれた伝統医学であり、整体観と恒動観(人体は恒常的に変化の過程にあるとする考え方)を思想的な基礎に、臓腑・経絡説を生理・病理理論の基礎として、陰陽五行説を援用しながら、疾病に対する診断・治療方針の決定を行う独特の医学理論体系である。「病名」医学でなく、「証」の医学とも言われています。
中医学は、湯薬療法、鍼灸、按摩、養生、看護、気功など広い範囲に渡っていますがが、普通中医と呼ばれる医者は湯薬療法をする医者を指しています。そのほかの部門にはそれぞれの専門職が担当している。例えば、中薬剤師、鍼灸医師、按摩師など。
中医学の特徴(思考方法)
中医学の治療の最大の特徴が整体観念と弁証論治です。
1. 整体観
中医学では、人を大宇宙である自然に対応した小宇宙と捉え、人体が一つの統一された整体で人と外界、自然環境とは密接な関係があると考えられています。人と自然の統一体観と人体内部の統一体観の両方面があります。
人と自然の統一体観(「天人合一」の思想)
人と自然環境も対立、統一の関係を持っているとされ、自然環境や季節、気候の変化は必ず人体に影響すると考えられています。正常な状況下においては人体が内部の調節によって外界環境の変化に適応し、正常な生理効能を保持しています。もし、外界環境に急激な変化が起り、また人体の調節機能がそれに適応できなげれば、人体の内・外の環境の間の相対的なバラソスがくずれて病気にたるわけです。
人体内部の統一体観
人体は一つの複雑な矛盾統一の体であり、人体内部の各臓腑の間、臓腑と体表の感覚器官(眼、耳、鼻、舌など)との間は経絡によってお互いに連絡し、整体を構成します。例えば、耳には全身のツボがあり、耳のまん中にある胃のツボを刺激すると胃が動くという事実はX線透視で確認されています。ある部位に病変があれば、他の部位及び整体に影響し、次第に全身のバラソスを失ってしまうので、疾病を治療する時には、病変の部位だけでなく、整体のことを考えなければなりません。
2. 弁証論治
弁証とは
中医学の統一整体観を基本とする理論に基づいて、望診・聞診・問診・切診の四診を行い、それによって得られたデータを、総合的に分析、判断し、疾病の原因、性質、部位、臨床症状(患者の自他覚症状)によって証候を判定し診断することです。中医学において、疾病認識の鍵を握るのは弁証です。
論治とは
弁証の結果に基づいて適切な治療法則を定め、相応の方薬を決定することです。
弁証論治とは
人体の臓腑、組織、器官の統一性を考えながら、証に基づいて、症候の鑑別、治療法則を確立するものです。弁証論治は中医学の診断と治療の全過程であり、弁証(診断方法)と論治(治療方法)の二つの部分から構成されています。「弁証論治」は中医学の大きな特徴です
漢方の治療法則(その他)
- 随症加減:同一の個体の同一の証であっても、経過や症状の変化によって薬も相応に変化する。
- 異病同治:同じ観点からたとえ異なる疾病であっても、同じ状態が見られれば、同様の治療法を用いる。
- 同病異治:同じ疾病でも個体差、時期、経過の違いによって異なった治療法を用いる。
中医学の基礎知識
陰陽五行論
陰陽五行は、元来中国の古代哲学の思想であり、人々が世の中のあらゆる現象を理解分析する思考の方法です。人体の生理機能や病理変化を分析、論証し、臨床の診断と治療を導き、中医学理論の指導思想及び重要な構成部分となっています。
陰陽の概念と分類
陰陽とは、古代中国人の自然観察より生まれた自然哲学であり、宇宙の相互対立、相互依存する二種類の事物に対する概括です。
一般に激しく運動するもの、外向的なもの、上昇するもの、温熱のもの、明るいものは陽に属し、相対的に静止しているもの、内向的なもの、下降するもの、寒冷なもの、暗いものは陰に属します。
中医についていえば、人体に対する推動、温煦、興奮などの作用を具える物質や効能は陽に帰し、人体に対する凝集、滋潤、抑制などの効用を具える物質や効能は陰に帰します。
また陰陽に分類された陰及び陽の中にも陰陽を見出し、無限に陰陽の分類ができるです。例えば、四季において、春と夏は陽に属し、陽気が最も高まる陽中の陽である夏に対して、陽気が増加する途中である春は陽中の陰です。秋と冬は陰に属し、陰気が最も高まる陰中の陰である冬に対して、陽気が衰退する途中である秋は陰中の陽です。
但し、これらの陰陽の関係は、絶対的なものでなく、相対的な関係である。常に一定の条件のもとではそれぞれ変化し得ます。例えば、胸は陰に属し、背は陽に属するが、胸と腹の関係では、胸は上部にあるので陽であり、腹は下にあるので陰にあります。
自然界の陰陽分類
分類 | 空間 | 時間 | 季節 | 温度 | 重量 | 明るさ | 方向 | 運動状態 | ||||
陽 | 天 | 昼 | 春・夏 | 温・熱 | 軽 | 明 | 南・東 | 左 | 運動 | 上昇 | 出 | 外向 |
陰 | 地 | 夜 | 秋・冬 | 寒・涼 | 重 | 暗 | 北・西 | 右 | 静止 | 下降 | 入 | 内向 |
人体における陰陽分類
分類 | 性別 | 部位 | 構成要素 | 機能 | ||||||
陽 | 男性 | 上 | 表 | 外 | 背 | 気 | 衛 | 六腑 | 興奮 | 亢進 |
陰 | 女性 | 下 | 裏 | 内 | 腹 | 血 | 営 | 五臓 | 抑制 | 衰退 |
診断における陰陽分類
分類 | 病証 | 脈証 | ||||||
陽 | 表証 | 熱証 | 実証 | 数 | 浮 | 滑 | 実 | 洪大 |
陰 | 裏証 | 寒証 | 虚証 | 遅 | 沈 | 渋 | 虚 | 細小 |
陰陽の関係(法則)
陰陽の制約
陰と陽は互いに制約しあってバランスを取っています。一方が衰退すればもう一方は亢進する、または一方が亢進すれば一方は衰退します。例え、人体の陰つまり血や津液が多く不足すれば(陰虚)、陰が陽を抑制できず発熱する(陽が亢進する)。体を温め臓腑を働かせる陽気である。陽気が衰えれば体を温めたり臓腑をうまく働かせず、寒症状が出現します。
陰陽の互根
陰陽互根とは、陰陽は独立して存在せず、互いに依存しあうと言うことです。
陰陽の消長
陰陽消長とは、陰陽が静止状態ではなく、春夏(陽)と秋冬(陰)、昼(陽)と夜(陰)の陰陽の入れ替わりのようにリズムをもった動的な状態でバランスを保っていることです。
陰陽の相互転化
陰陽の転化とは、一定の条件下で陰が陽へ、陽が陰へ、性質が変化することである。例えば、実証が長引けば、正気が邪気により損陽され、虚証へ変化します。
五行の概念と分類
五行とは、万物は木・火・土・金・水の五つの物質の運動と変化により成り立つと考える古代中国の自然哲学であり、世間の万物を分類・整理して各々の関係を説明理解するものである。中医学では、五行論を用いて人体の生理や病理を分類し理解しています。
五行の分類
自然界(大宇宙) | 五行 | 人体(小宇宙) | |||||||||
五味 | 五色 | 五化 | 五気 | 五方 | 五季 | 五臓 | 六腑 | 五官 | 五形 | 五志 | |
酸 | 青 | 生 | 風 | 東 | 春 | 木 | 肝 | 胆 | 目 | 筋 | 怒 |
苦 | 赤 | 長 | 暑 | 南 | 夏 | 火 | 心 | 小腸 | 舌 | 脈 | 喜 |
甘 | 黄 | 化 | 湿 | 中央 | 長夏 | 土 | 脾 | 胃 | 口 | 肉 | 思 |
辛 | 白 | 収 | 燥 | 西 | 秋 | 金 | 肺 | 大腸 | 鼻 | 皮毛 | 悲 |
鹹(かん) | 黒 | 蔵 | 寒 | 北 | 冬 | 水 | 腎 | 膀胱 | 耳 | 骨 | 恐 |
五行の相生・相克と母子関係
五行のある一行が、別のある一行に対して、資生・促進・助長に働くことを相生といいます。
五行のある一行が、別のある一行に対して、抑制・制約に働くことを相克といいます。
相生関係
五行のある一行が、別のある一行に対して、資生・促進・助長に働くことを相生といいます。
木と火の間には相生関係があり、木は火を生じます(木生火)。木が燃えることにより火が生じる姿にたとえられます。火は土との間に相生関係があり、火は土を生じます(火生土)。木が燃えて(火より)灰となり土が生まれる姿にたとえられます。土が金との間に相生関係があり、土は金を生じる(土生金)。土中より金属が産出される姿にたとえられます。金は水との間に相生関係があり,金は水を生じます(金生水)。金属製品に結露(水滴)が生じる姿にたとえられます。水は木との間に相生関係があり、水は木を生じます(水生木)。木が水を吸い上げて成長する姿にたとえられます。
母子関係
相生関係では、ある一行を生じさせる一行を母と表現し、生じた一行を子と表現します。木は火を生じるため、木は火の母であり、火は木の子であります。火は土を生じるため、火は土の母であり、土は火の子あります。土は金を生じるため土は金の母であり、土の子は金であります。金は水を生じるため、金は水の母であり、水は金の子であります。水は木を生じるため、水は木の母であり、木は水の子であります。
母 | 水 | 木 | 火 | 土 | 金 |
五行 | 木 | 火 | 土 | 金 | 水 |
子 | 火 | 土 | 金 | 水 | 木 |
相克関係
五行のある一行が、ある一行に対して、抑制・制約に働くことを相克といいます。
木と土の間には相克関係があり、木は土を克します(木克土)。木が土より栄養を吸い上げて(消費して)成長する姿にたとえられます。火は金と相克関係があり、火は金を克します(火克金)。火が金属を溶かす姿にたとえられています。金が木との間に相克関係があり、金は木を克します(金克木)。金属性の斧が、木を切る姿にたとえられています。土は水との間に相克関係があり、土は水を克します(土克水)。土手による治水により、水の流れが制御されることにたとえられています。水が火との間に相克関係があり、水は火を克します(水克生)。水が火を消す姿にたとえられています。
相乗と相侮
相克関係が過度となり、克される一行が過度に抑制されるものを相乗といいます。
本来克する一行が逆に抑制されるもの反克を相侮といいます。相克は生理であり、相克の異常である相乗、相侮が病理であります。木が強くなりすぎて土を克しすぎる状態は、木乗土であります。または、土が弱った(虚する)状態に木が乗じた(乗ると、陵辱するの意味である)状態であるために、土虚木乗と表現され、相乗の一種であります。木が強すぎるため、本来克する一行が反対に克された状態であります。木が金を侮るので、木侮金と表現します。または金が弱りに木を克することができず、反対に木に克された状態は、金虚木侮と表現されます。
相侮の一種であります。