疾患別ガイドライン

糖尿病

2004年5月,日本糖尿病学会から「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン」が発表された。本ガイドラインは,2年前に厚生労働省の医療技術評価総合研究事業の「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインの策定に関する研究」(主任研究者:赤沼安夫/朝日生命糖尿病研究所)としてまとめられ,「糖尿病」に発表された原稿をもとに,一部改訂を加えたものである。ここでは,同ガイドラインに示された血糖コントロールと血圧・脂質の管理について概説する。

血糖コントロールの指標と評価

指 標 コントロールの評価とその範囲
不可
不十分 不良
HbA1C (%) 5.8未満 5.8〜6.5未満 6.5〜7.0未満 7.0〜8.0未満 8.0以上
6.5〜8.0未満
空腹時血糖値
(mg/dl)
80〜110未満 110〜130未満 130〜160未満 160以上
食後2時間血糖値
(mg/dl)
80〜140未満 140〜180未満 180〜220未満 220以上

注1)血糖コントロールが「可」とは,治療の徹底により「良」ないしそれ以上に向けての改善の努力を行うべき領域である。
「可」の中でも7.0未満をよりコントロールがよい「不十分」とし,他を「不良」とした(この境界の血糖値は定めない)。

注2)妊娠(妊娠前から分娩までの間)に際しては,HbA1C5.8%未満,空腹時血糖値100mg/dl未満,食後2時間血糖値120mg/dl未満で,低血糖のない状態を目標とする(本ガイドライン「15.糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病」の項参照)。

(日本糖尿病学会編. 科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン. 南江堂, 2004)

血圧と血清脂質の厳格なコントロールを

糖尿病患者は,非糖尿病患者に比べて大血管障害(脳血管障害や冠動脈疾患)の発症率が2−4倍にも増加する。そこへ高血圧や高脂血症が合併すると,そのリスクはさらに相加的,相乗的に増加する。高血圧の合併はまた,細小血管症の進行を加速させる。その予防には,血糖,血圧,血清脂質の厳格なコントロールが必要であり,食事療法・運動療法を基本として,特に肥満者では標準体重,すなわちBMI<22を目標として指導する。高血圧の降圧目標は,HOT(Hypertension Optimal Treatment)studyやUKPDS(UK Prospective Diabetes Study)の結果をふまえ,従来のJSH 2000(日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン)よりさらに低く<130/80mmHgに設定された(JSH 2004(12月発行予定)でも<130/80mmHgに改訂され る見込み)。
また,≧140/90mmHgであれば降圧治療を直ちに開始し,130/80−139/89mmHgの場合は生活習慣の修正を指導し,3−6ヵ月後に目標血圧に達しなければ降圧薬を開始するとしている。
脂質のコントロールに関しては,日本動脈硬化学会の患者カテゴリー別管理目標値(動脈硬化性疾患治療ガイドライン2002年版,表)が用いられている。すなわち,総コレステロール,LDLコレステロ−ル濃度を,冠動脈疾患がない場合はそれぞれ<200,<120mg /dL,すでに冠動脈疾患がある場合はそれぞれ<180,<100mg/dLを目標とする。また,TG(中性脂肪)<150mg/dL,HDLコレステロール≧40mg/dLを目標とする。

患者カテゴリー別管理目標値(動脈硬化性疾患診療ガイドライン)
患者カテゴリー 脂質管理目標値(mg/dl) その他の冠危険因子の管理
  冠動脈疾患* LDL-C以外の主要冠危険因子** TC LDL-C HDL-G TG 高血圧 糖尿病 喫煙
A なし 0 <240 <160 ≥40 <150 高血圧学会のガイドラインによる 糖尿病学会のガイドラインによる 禁煙
B1 なし 1 <220 <140
B2 2
B3 3 <200 <120
B4 4 <180 <100
C なし  

TC:糖コレステロール・LDL-C:LDLコレステロール・HDL-C:HDLコレステロール・TG:トリグリセリド

*冠動脈疾患とは、確定診断された心筋梗塞、狭心症とする
**加齢(男性≥45歳、女性≥55歳)、高血圧、糖尿病(耐糖能異常を含む)、喫煙、冠動脈疾患の家族歴、低HDL-C血症(<40mg/dl)

  • 原則としてLDL-C値で評価し、TG値は参考値とする
  • 脂質管理はまずライフスタイルの改善から始める
  • 脳梗塞、閉塞性動脈硬化症の合併はB4扱いとする
  • 糖尿病があれば他に危険因子がなくともB3とする
  • 家族性高コレステロール血症は別に考慮する

Steno-2 studyの結果(N Engl J Med 2003;348:383-93)などでも明らかにされたように、糖尿病疾患の細小血管障害や大血管障害をさらに減少させ、あるいは予防するためには、血糖のみならず、血圧や脂質の厳格なコントロールが求められている。